成りたろう 本 映画 切手 を語る: ■裏切られるのに離れられない作家 インターネット集客 株式会社レゾンデートル

2012年10月28日日曜日

■裏切られるのに離れられない作家 インターネット集客 株式会社レゾンデートル




 裏切られることが多いのに、傑作の衝撃、感動が逆トラウマになり、どうしても離れられない。そんな作家を、誰しもお持ちではないだろうか。

負けても負けても、応援を、ファンを辞められない、野球やサッカーのチーム。かような按配でしょうか。一度でも、優勝を味わったり、優勝でなくとも、強豪に快勝する快感を得てしまうと離れられないのです。

作家の場合は、多才な人に多いように思う。

 その活動のジャンルが広く、タレントとしての顔もあるような。作家のスタンス、特色が、悪く言うとない。よく言うと、色々書けて、幾度かスタイルのチャンジに挑戦している。されば、リスキーであり、期待外れの確立も高い。いい意味で裏切られ、唸る場合と、真逆に呆れて、腹立たしいことこの上ない場合と。

それでも、適度な距離を保ちながら、付き合っている。

この手の人は著名なので、その新刊を評価する評論家、識者を見分けるには、有難い。

すなわち、判らん阿呆か、私と合わない者は、何でもかんでも褒めるだけ。じゃ、お前の仕事はいらないだろう。人を、作品を酷評することは勇気がいる。しかし、それを真摯に実行できる者が評論家であり、その作家の真の味方ではないだろうか。阪神や広島のファンの自チームでの野次を聞いてみろ。その愛も仲々届かないが・・・。

しっかり自身の評をしている人に会うと得をしたような嬉しい気持ちになり、その氏の評がまた新しい道標になってゆく。

 さて、評論家ではないので、好き勝手に、悩ませてくれる主について、二人ほどお話ししてみたい。

     村上龍さん(1952年・長崎県生れ・1976年芥川賞受賞)

中学生の時、大人がワーワー囃したてている髪の毛がボサボサの冴えない、自分ではいい男だと勘違いしているらしいオッサンが、初めて見た氏だった。

   限りなく透明に近いブルー ・・・群像新人賞・芥川賞受賞作。
説明の必要があるだろうか。書き出しから素晴らしい。
中学生の私にも、その質の高さは、明白で。腕に鳥肌がたつような衝撃で、未だに忘れられない。自身の体験に基づく、青春をもてあましたジャンキーのよた話。薬とSEXと暴力と・・・そんな背景ばかりをマスコミ・大人がとりあげていた。が、本質は硬質な文章で綴られた人間の自己否定しようとしても、勝手に湧きあがる強い生への賛歌。
荒削りな文章すらも将来の可能性を髣髴とさせ、楽しみを感じさせる。
ちなみに、単行本の装丁は氏のアイデアによる登場人物のりりぃ本人の横顔の写真であることは有名。小賢しい。

     海の向こうで戦争が始まる・・・前作を知るに、大いに期待し、大いに呆れた駄作。
同じ人間書いたとは到底思えない。前作はゴーストライターの作か?
とにかく、何を云いたいのか判らない。今もって最後まで読了していない。
その価値も意味もないことは明白。嘘だと思うなら、立ち読みで数ページどうぞ。

※ 新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫) ・・・衝撃の大傑作。昭和の小説史に残すべき本。
昭和の日本人は、こういう不安を感じながら、騙しだまし、懸命に生きていたんだ、と証明する本。くしくも、後年、平成では“普通”の出来事になってしまう。
デビュー作同様、SFにも近い近未来的な背景の中に、人間の本質、悪と美を対照的にあますところなく描ききっている。
ニート? ひきもこり? 甘ちゃんの阿呆どもは、この本を読みなさい。

※ テニスボーイの憂鬱・・・賛否両論抱える話題作。多くの識者、評論家の絶賛をうける。本書をもって氏の一世一代の代表作とする識者は多い。
私自身は、その評の正しさを認めながらも、どうも馴染めない謎の一冊。
識者の評を拝借すると、人間の抱える正体の知れない不安、焦り、を一夜にして億万長者になってしまった若者の憂鬱という現象をもって抉り出している。
全くその通りだが、個人的に全体のトーン、リズム感が合わなかった。冗長かも。

     ラッフルズ・ホテル・・・今思えば、駄作放浪の旅への序曲。

     トパーズ・・・ん? 社会記者きどり?

     村上龍映画小説集・・・久しぶりに読めるかな、と思う期待作(だった)。
BOOKOFFの@¥100に現れるのを待っている状態が続く。

※五分後の世界・・・あれ、村上春樹に対抗しているの? それはちょっと・・・

     KYOKO・・・それで? でも、映画の主役、高岡早紀は、役に合っていて可愛かった。

     インザ・ミスソープ・・・あれ?

ということで、氏との蜜月も駄作の連発でほぼ終わりかに思えた。

2005年、「北朝鮮」の日本侵攻を題材にした話題作と云うことで耳目を集め、本屋に山済みで発売された本があり、(また、大げさに売りに出たか・・・)と苦々しく黙殺。その後、BOOKOFFの@¥100で見つけ、そもありなん。売れたが、すぐにお蔵入り=古本屋行きのよくあるパターンと知りつつ、何となく文庫本上下2冊を購入、自宅にストック。

※  半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫) ・・・私の中で、龍復活の書。
とにかく、最後の数ページが素晴らしい。前述の大げさな侵略譚に体裁をとり、多少、そんなアホな、が散りばめられているが。
その本質は、人間には、誰でも生まれた意味、価値があり、存在意義を見つけられる、という希望の書。
社会の屑と思われし人間の逆襲の冒険物語。
さりげなく、冷たいような演出に底流する、男の本物の友情が美しい。
結局、作者は、最後の数ページのためにこの大作を書き下ろしたのだと思う。
単純に、私は、そんな本がただ大好きなだけかもしれない。

     辻仁成さん(1959年東京生まれ・1997年芥川賞受賞)

南果歩・中山美穂の旦那。この経歴から胡散臭さがお分り頂けると思う。

     ピアニシモ・・・すばる賞受賞のデビュー作。
装丁にひかれ買った。可もなく不可もない。が、氏の才能の高さはありありと伺える。今後に期待・・・と云う意味で強く記憶されたことを覚えている。

     母なる凪と父なる時化・・・よくある親子のシリアスな叙事詩。
よくまとまっている。感動もする。が、何か物足りたい。贅沢な悩みかもしれないが、出来すぎ、なのだと思う。最初から最後まで安心して読めるが、残る感動に薄い。

     海峡の光・・・芥川上受賞作。
人間の暗部を粛々と書き上げた名作。
しかし、どうも裏があるような気がして、快哉できない。個人的には、母なる・・・の方が余程好きである。

 ※ 白仏 (文春文庫) ・・・氏の代表作というより、平成を代表する大傑作。
ようやく氏の才能が静かに爆発した快作。
日本より、むしろ、海外での評価が高い。スケール、高貴な質感、は活字に慣れの浅い日本人には重く感じるかもしれない。しかし、再読に耐え、読むごとに味わいが変る。聖書のような本。
自身のルーツに端をとると聞くが、古きよき日本の品格をあますところなく描ききった本。読んでいて、日蓮や新渡戸稲造を想起したのは私だけか。
日本に幻滅した日本人や、誤解している海外の識者に読んで欲しい。
後世、近世の日本人の質を語る資料となるべき一冊。

 冷静と情熱のあいだ・・・江國香織との表裏一体のコラボ、話題作。映画化前提。怪しい。
才能があり過ぎるのだろう。ビジネス的な前提・制約の下、こんなもんだろう、と推敲を途中で辞めたような感じがする。しかし、そこそこの質は備えている。流石で、惜しく、腹立たしい。
好みの問題だろうが、同じ制約下でも、相棒の江國のそれは、それなりに妥協のない素敵な仕上がりで2冊で完成とするべきか。


「本」は素晴らしいですね。それではまた。サヨナラ、サヨナラ、サヨウナラ。

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