羊の目 伊集院 静 文春文庫
伊集院静が好きだ。
「三年坂」「乳房」あたりからなので、長い。
氏の無頼な生き方、競輪への姿勢、酒への姿勢。
昨今、妙に引っ張り出されて、寂しい気もするが、また、どうしても、故夏目雅子さんとの話がエポックメイクになるきらいがあるが。
そんなことは関係なく、昔から共感、、、と云うより、影響を受けてきた気がする。
別に女にもてようとか、渋く生きようとか、そういうことでなく。
むしろ、氏のぶっきらぼう、不器用な、生き様が好きだ。
小説は、そんな氏をよく投影していると思う。
評価は様々だ。
正直、技術論やストーリーテラーとしては、他にゆずるところはあるだろう。
しかし、多くの作品を通して、その内容が暗かろうが、悲惨だろうが、一貫している主題がある。それは、人間の尊さ、無垢の強さ、純粋の美しさ、だ。
特に、懸命に修行する若者にそそぐ視線は優しく。
特に、女性で、底辺に生きる者への自愛は柔らかい。
本編は伝説のやくざをモデルにしつつも、更に、純粋で、古臭く、時代遅れの、存在することが信じられないような、主人公の生き様を紡いでいる。
ただひとつ、信じるものを、信じとおし、俯瞰してストーリーがみえる読者は、また、世俗的な垢にまみれている読者は、はらはらしたり、ときに、バカ、お人よしもいい加減にしろ! と耳朶をかみつつ読み進む。
低俗なドラマにあるように、ただ主人公だから死なない・・・のではなく。
むしろ、かように辛いのであれば、死んでしまった方が・・・などと思いつつ、その、時々の重い十字架を、ただ、信じる者のために、背負って生き続ける。
約3年にわたる、長い、別冊 文藝春秋への連作であるが、ひとつひとつは独立している。しかし、底辺を流れる、大事なものは、いささかもぶれていない。
プロだから、の一言で片づけるには、見事だと思うほど、徹底して貫かれている。
現在の若者に、そして、人生を振り返る我々中年に、手にして欲しい。
古臭い、黴臭い、男の小説である。
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