成りたろう 本 映画 切手 を語る: ■ご存知ですか? 小説の定義は、「人間」を描くことです。

2012年11月4日日曜日

■ご存知ですか? 小説の定義は、「人間」を描くことです。



     ご存知ですか? 小説の定義は、「人間」を描くことです。

 丸谷才一さんが亡くなった。

 実は、あまり作品を読んでいない。「女さかり」を読んで、ふ~ん。と、王道の書き方と云うか、教科書通りの書き方、と云うか。お上手なり、と云う想いが残っている。この老境の作ではなく、油ののった時期に書かれたものを、機会あらば読んでみようと思う。

 亡くなった方のネガティブなお話をしても何でして。やはり、その業績と云うか、代表作(作品? ではないが)は、「文章読本」をあげる、挙げざるを得ない人は多いと思う。

 昭和の世では、現在のように、カラー、図解で手取り、足取りするビジネス書的な、その本自体、売れねばならない指名を負った本とは一線を画す、学術書の匂いのする指南書が多く排出されていた。

 文士と云う因果な稼業を目指し、かつ、それが活字を産む仕事であるのだから、読み手としても相応のトレーニングを積んでいるべきで、何もはぐはぐと甘い、よみ易い体裁、内容である必要は、ない、と私も考える。本質を淡々、粛々と綴ったもの。質の高さが重要で、それを理解、咀嚼し血肉とするのは、読み手の仕事、責任である。

 高校生から大学生当時、読みふけった指南書、全て「文章読本」と云う題名であった。同じとは捻りも芸もなく、淡々としていい。丸谷さんの他、谷崎潤一郎、井上ひさし。そのどれもが、同じ定義をしていた。

 すなわち、小説とは、人間を描くこと。  であると。

 であるならば、売れること、読まれること、もっと言い切ってしまえば、書いていることが知られていないこと・・・。隠遁にも近い環境でかかれるものこそ、本質的に小説なのではと考えることがしばしばある。

 隠遁し、出版しないものは、世間の、私の目に触れないわけで。何とか目にふれていても、多くの激賞を受けていない。そんな小説にはまるとき。何ともぞくぞくする。”発見“という嬉しさがある。

 前置きが長くなりました。今回は、隠遁までいかなくとも、お勧めの、いや、ただ私が好きな、私小説家についてお話させて頂きたい。

 まず、思い浮かぶ名前から。

 鴨長明、吉田兼好、葛西善蔵、岩野泡鳴、近松秋江、太宰治。絵画の世界にかかるが、つげ義春・忠男兄弟。林静一と歌手、あがた森魚のコラボは秀逸。

 作品の全てではないが、島崎藤村、谷崎潤一郎、志賀直哉、壇一雄。そして、永井荷風。

 さて、私小説のくくりではないが、オマージュを込めてひとり。吉村昭さん。

 綿密な取材、資料の精査に基づく、歴史小説とノンフィクション的な作品で有名であり、その作品、ほぼ全て読ませてもらっているが、お亡くなりになり残念である。

 「冷たい夏、熱い夏」と云う実の弟さんの最期を記録した作品がある。その題名の通り、暑いのではなく、熱く。そして、冷たいのである。そして、ご自身も若いころの長き闘病生活と共に、芽が出るまでの修行・修作時代の実話。「私の文学漂流」が忘れられない。

 文学を志す者だけではなく、多くの若者や人生に挫折した人にお勧めしたい。派手ではなく、地味で、ヒーローになるわけではない。それだけに現実味があり、芯に迫る。

 氏が太宰賞を受賞した際、一足先に直木賞を受賞している、妻・作家の津村節子が、静かに、しみじみと喜ぶシーンが何とも云えない。現実味があり足元から静かに湧きあがるような感動がある。

 次に、現役作家で古めかしい気品を備える才人。町田康。

 私と同郷、大阪府・堺市の生んだ才能。「くっすん大黒」「夫婦茶碗」題名からして、素晴らしい。生き方、価値観がしっかりと書き込まれた、これらの作品は、フィクションであるので、私小説ではないかもしれないが、その本質は、“私”“人間”を描ききっており、心に強く刻まれる。


 その独創性から、好き・嫌いがあり、読了にトレーニングを要するかもしれない。
 近松門左衛門、井原西鶴~太宰治、織田作之助~近松秋江~町田康、との系譜で評される。同感である。

 最後に。現役作家にして、ファンを魅了と云うか、期待通り、毎度、どうしようもなく暗くしてくれる作家。車谷長吉。彼のことを書きたくて、今回のブログの筆をとった。

 説明するに惜しい。とにかく、読んで欲しい。

 実体験しなくとも、取材・調査で擬似的に描ける、吉村さんに対し、車谷のそれは、ザ・自分の体験談。迫力と云うかおどろおどろしさが氏だけの世界を醸す。よく、死なずに作品が発表されて良かったと安堵する。また、文章の質が、どうしようもなく高い。段落の区切りが長く、トレーニングの浅い読み手には重いかもしれない。しかし、我慢・・・して読み進むうち、虜になってしまうだろう。使われている言葉、漢字、ひとつひとつに意味、役目、拘りがある。

 私の知る範囲、現存のもっとも期待を裏切らずに、どんよりさせ、深く思考・思想の深みに連れて行ってくれる、確かな作家であり、後年、昭和期の人間の生々しい思想、特に、関西圏の底流に今も昔も流れる偽りなき本質を語るに資料として読まれる格調を持つ数少ない大作家。

 作品も少ないが、各々の出版数も少ない。取り敢えず、代表作2つを挙げておく。今後、全作品を読破したい作家である。

◆塩壷の匙

◆赤目四十八瀧心中未遂



【執筆者】成りたろう  株式会社レゾンデートル
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