宮本輝 「花の回廊」 を読んだ。
先に申し上げる。
今回の標題に反して、本書は、自叙伝ではない。
しかし、連作の第五部にあたる本作。
第一作の「流転の海」が世に出て、実に30年近く。最初から、ブックオフ・・・で手にとっているので、初めて読んだのが、まだ社会人なりたての頃であったか。
実に、昔のお話である。
長い期間をかけて熟してきている。
まさに、氏のライフワークである。
しかも、舞台が生まれ育った、大阪を軸に、自叙伝と云われる「蛍川」同様、富山、愛媛と展開する。
蛍川や、大阪に馴染みの名作、「泥の河」「道頓堀川」を読んでいる下地があると、どうしても、氏の自伝的なにおいを嗅ぎとってしまう。
実際、ノン・フィクションでなくとも、随所に実話が反映していることは確かだろう、と思う。
読む側も、四半世紀以上の付き合いとなると、なんだか、他人事ではなく、自分の周辺にあった懐かしい実話のように思えてくる。
何とも自然に。
さて、この本について。
主人公一家が、失意の中、大阪に舞い戻り、再起をきす時期と、病弱な息子の自我が見え始める時期を、時代背景とともに、克明に描く。
叙事詩。
何故なら、読了後に、本の題名の重大にして切ない意味に気づくしかけになっている。
かつて、師匠格の水上勉が、氏を称して、日本昭和文学の白眉と云っていた。
当時もうなずけた。が、時が平成にうつり、時間が経過して、尚更にその言葉の意味が、よりふさわしい品格をまとう。
内容なフィクションでも、これは、氏の分身。自伝とみる。
ちなみに。
私の人生に影響を与えた、忘れられない、自叙伝に材をとった小説、三傑。
1.渡辺淳一 「白夜」文庫版全5巻
医学生・インターン時代の自伝。
合掌しつつ、ファンには申し訳ないが、後半の本は全然理解できなかった。
当初の作品は、おそらく殆ど読んでいると思う。
その中核になる5冊にわたる長編。
医療界の裏、実話に題をとった真の成長物語。
2.椎名誠 「哀愁の町に霧が降るのだ」「銀座のカラス」
とにかく面白い。
とにかく、切なく、笑える。
青春と成長の連作。
3.伊集院静 「海峡」「春雷」「岬へ」
朝鮮人にして街の中心人物・豪傑だった父。
弟の死、大学野球の挫折。
氏の有名な、包み隠さない半生を綴った哀しくも、次世代に捧げるお話。
男ならわかるはず。
皆さんの人生に影響を与えた小説。
しかも、その作家の事実を綴った、自伝小説 は何ですか?
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