数年前、中村橋辺りを適当な居酒屋をめざし歩きながら、私が云った。
「最近、ダメというわけではないけど、・・・漱石を読んでも、昔ほど面白れぇ! と思わないんだよね」
無類の本キラーで偏屈者の友人、Uが、つぶやいた。
「堕落だね。でも、成長とも云う」
小学高学年から中学校のころ、いわゆる、日本文学全集にのるような小説が面白かった。
特に、漱石は大好きだった。ませていたのか、変なのか、スケベな価値では決してなく、谷崎の雅な、これぞ日本美的な世界にも傾倒した。
その後も、高校、大学、社会人、ふとした時に、ぱらぱらと漱石を読むと、裏切られない安心感と共に筋がわかっていても、やはり、面白かった。
ところが、40を過ぎて、どうもおかしい。
面白くないのだ。
普通の友人には話さないが、変人の友にて、つい、ぽろり、と。
小雨の夜だった。
成長かどうかは判らないし、相性もあるだろう。
人は、面白いと思うものに冷めたり(否定でも、飽きでもなく。敬意も失っていないが)、逆に、突如、難解なものが理解できたり、親しみを感じたりする、転換期、兆しのようなものがあると、今にしてしみじみ思う。
思えば、全く理解不能だった、「第3の新人」と云われる、しかめつらしいおっちゃん達の小説が、たまらなく魅力的になり、むさぼり読んだ。
大学の終わり頃から30歳あたりまで。
特に、20歳代の終わりは、三島で商社に勤めながら、彼女もいなく、仕事、酒、本、酒、本、酒、酒、仕事。こんな毎日だった。
最初は、とっつきのいい遠藤さん、曽根さん、あたりから。
余談であるが、同じ時期、「まんぼう」以外の北杜夫、古井由吉、なども読んだなぁ。
で、男なので、阿川弘之に胸をあつくし皇国にひたる。
酒を覚えると、吉行淳之介、これはライフスタイルにも影響したりして。
徐々に、庄野潤三、安岡章太郎、そして、小島信夫となる。
多くの方、特に男性であれば、順番も含め、あるある、と同意頂けるのではないだろうか。
また、一人、そんなおっちゃん(おじいちゃん)が亡くなった。
時に熱く、時に自分勝手に、また飄々と進む文体。
しかし、読後の充実感がなんとも云えず、これぞ本なり、と得をした気分になれる。
今、読み返すとしたら、その多くは、絶版で、神保町に探すも心細いし、高い・・・。
幸い、10年ほど前から、講談社文芸文庫で復刻していることに感謝している。
週末、久しぶりに本棚から引っ張り出して、およそ海辺の爽やかさのない、海辺に心を漂わせてみたい。
日本の財産たる本を残して頂き感謝に絶えず。
合掌。
◆筆者:成りたろう
インターネット集客、WEB開発・制作、コンサルティングに従事しています。
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